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石川・富山・新潟編 第三回 平成九年六月四日〜八日
いよいよこのバイク旅も三回目になり別府からますます遠ざかって行きます。
一回目(山口・島根)二回目(鳥取・福井)は取り敢えず、特別苦労することなくクリアすることができたのですが、全国制覇した体験の中で、今回の旅が一番大変な旅でした。
やはり神様は私に「洗礼」を授けるのです。
今回の旅は一年前から決まっていた「全国飲食業環境衛生大会」が福井県であることがわかっていたため、私は永平寺まで、団体ツアーの一員でした。
永平寺に着くと同時に私はバイクが待機しているユースに一目散で走りました。
火事場の馬鹿力ではないですが、日頃の私は百メートルでさえも息があがってしまうのに、いったいどれくらいの距離かは記憶に無くなっていますが、なにしろ全力失踪で走りひと月ぶりのご主人にお礼の言葉もそこそこにバイクの元に走りました。 先月の松江の駐輪場で待機していた廃車のような姿とは違い、今回は大きなビニールカバーに覆われていたためエンジンもすぐにかかり、なにはともあれ一安心して、団体ツアーの仲間とはここでお別れして、目的の「石川県立図書館」に向かってひたすら走り続けました。
兼六園は過去散策したことがあるため、入園切符だけを手に入れ、目的地の図書館に辿り着くことが出来ました。
ここでもとても歓待していただき、次の目的地富山県立図書館・新潟県の図書館の課長さんを紹介してくださり、この旅の醍醐味はこのように「図書館」という共通なもので繋がっていることに気がつきました。
ここまではすべて良いことづくめの行動でした。
石川県立図書館でいざバイクに乗ろうとちょっと腰をかがめた瞬間、カメラがポッロと地面に落ちたのです。 このカメラは「コンタックスTVS」という高級カメラです。
嫌な予感がしたのですが、見掛けはぜんぜんなんともなっていません。
気持ちを取り直し目的のユースに向かいます。
卯辰山自然公園の中にあるので緑の木々の合間を走り、これがユースのお部屋?という程広くてきれいでした。
いつものように行動日記を書き上げ「カメラ」を手にして「やっぱり!」と思いました。
シャッターが切れません。
私は良い方に考えることにしました。「このカメラが私の変わりに少し傷ついてくれたのだ・・」
夜中は凄い大雨の音でなかなか寝付くことが出来ません。
嫌な夢を見てしまいました。
朝食を済ませ新聞を読み、今日の占いの記事が目に飛び込みました。「事故に注意!」と書いてあるのです。
昨夜の夢・カメラの故障・嫌な胸さわぎがいたします。
雨はだいぶ小降りになり、勇気を出して、かっぱを着て次の目的地「富山県立図書館」に向かいました。雨は思うほど強くなく、車も少ないため特別苦労することなく、図書館に到着いたしました。
昨日の石川県の図書館の課長さんから紹介していただいた課長さんがここでもとても親切に対応してくださいました。
私はたくさんのバイク仲間に恵まれ、体験談で「新潟県の親不知が一番怖かった!」と聞かされていたのです。
いよいよ「新潟県内」に入りました。
その時、事件がおこったのです。
ウソ!!!私は道路の端の路側帯をただひたすら真っ直ぐ走っていたのです。
信号など無い細い道があり、その後ろから一台の車がやってきました。
私の存在を気づかずきっと左に曲がろうとしたと思います。私は「まさかこの車が私の前を横切るはずない?」と思った瞬間やはり「接触」して、私の体は道路にほうりなげられてしまいました。
私の口から出た第一声。
「ゴメンナサイ!こんなことをしなくて良いのにしている私が悪いのです。」と心からそう思いました。
車の運転手さんは倒れたバイクを起こし、「病院に行きましょう」と言ってくださいましたが、私は足と頭を障り、特別変化がないので、お互いの住所と名前を交換して、「なにか変化があれば連絡します。」と言ってバイクの点検をし、異常がないので、その場を走り去りました。
一難去ってまた一難。
トイレ休憩のためパーキングに入り、用を済ませ、いざバイクに乗ろうとした時です。
後ろのタイヤに大きな釘が刺さっているのです。
このパーキングの前は海で民家など見当たりません。
先程の「事故」よりもこの「釘」を見た時のほうが「頭をなぐられたようなショック」でした。恐る恐る釘を抜きました。 不思議なことにタイヤはびくともしてなくてパンパンに張ってくれていました。今でもそのタイヤで走っているのですよ。 なにはともあれ気持ちをひき締め難所の「親知不」に向かいます。 トンネルの前でバイクを止め、自転車可と書いてある遊歩道があるので、バイクを押して歩いて行きました。
まったく誰にもあいません。 最近北朝鮮の「拉致問題」が報道されおり、この時点ではあまりそんな話はされていませんでしたが、私は「もしここで強風が吹きこの断崖絶壁にバイクごと落ちてしまったら?・・」しばらく誰にも気づかれず、まだどこかの町を走りまわっているくらい・・にしか思われないなーなんて思ってしまいました。 死神の話など信じることは出来ませんが、この「親知不」の断崖に立った時、体中に「鳥肌が立つような不安な気持ち」になりました。
今日の宿は「糸魚川」の「駅前のビジネスホテル」に決めました。
フロントで安くておいしい店を尋ねると「定食屋」を紹介してくださり「野菜いため定食」を食べ、「別府から来た」と話すと「一度も九州に行ったことがないので、行って見たい!湯布院に行きたい」などと世間話しをしました。野菜いためを食べるたびにこの「糸魚川の食堂」を思い出してしまいます。
このホテルの一階は「スナック」になっているため、カラオケの音が枕もとから聞こえてきます。今頃の時間はもしかしてあのお客様が来て今聞こえる歌はあのお客様の得意の歌・・などと夢と現実の区別がつかない程頭の中を走馬灯のように今日一日の出来事を思い浮かべていました。
いよいよ今回の最終目的「新潟県の図書館」に向かいます。 今までは何処の図書館もとても歓待してくれたのですが、今日は土曜日で石川県の図書館で紹介された課長さんはお休みでした。お客様が多くてなかなか私の話を聞いていただくことができなかったのですが、短い合間に私の目的の証明写真を快よく承諾してくださり、目的は達成することができました。
今回は新潟から飛行機で福岡に帰る予定にしていました。
最終便にはゆっくり時間があります。
飛行場にはきっと「駐輪場」があるはずなのでここに預けて置くことを計画しました。 第一回の「松江の駅の駐輪場」を思い出しました。
警備員の人に「来月までここに置くことを許可してください」と一生懸命お願いするのですが、絶対に「許可することはできません!」と激しく怒られてしまいました。
町まで出ようと決めバイクに乗ると雨が降りはじめました。 いったいどこをどう走っているのかなにもわかりません。
雨と涙でぐちゃぐちゃのどぶねずみのようなみすぼらしい姿になってしまいました。
その時です。「和風スナック」の看板が目に飛び込んで来ました。 どぶ鼠のような私は「ごめんください!」と大きな声を掛け、「スナック」の中に入りました。ママさんは驚いた表情でしたが、すぐに私の話を理解してくださり、取り敢えず、「スナックのお客」になりました。
このママの知り合いのホテルを紹介してもらい、ここで思い切りカラオケで歌い、横にいるお客様が「くやしい位にうらやましい!」と私の体験談に聞き入ってくださいました。 フロントの奥様の「ようこそいらっしゃいました!」この言葉は誰でもおっしゃるはずです。 でも「笑顔」が違うのです。 地獄に仏の諺があるように、初めて心の底から「ようこそ」と言ってもらえた思いでした。 温泉に入り昨日の事故で体が傷ついていることがわかりました。 身も心もぼろぼろになり、なんて馬鹿なことを私はしているのか?とふとんの中に入り、枕を濡らしてしまいました。
ここのホテルの駐輪場にバイクを預かってくださるというのでまた安心して来月までお別れです。
ホテルの裏玄関には「菩薩様」が奉られていました。 私の頭を雷のような衝撃が走ったのです。この菩薩様に会うために私はここまで来たのだ。しばらくこの場から離れることが出来ませんでした。
新潟空港で飛行機に乗り、福岡まで、一時間半で到着する道のりを飛行機の上から眺めながら、「私は小さなバイクでこの道を走って来たのよ」とつぶやきました。
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